episode-7
ハノイの街はオートバイ目線を意識したLED看板のオンパレード
会うと、必ず、ご挨拶するベトナム人の老人がいる。おそらく、75 歳から 80 歳と思われる。
ベトナム戦争が終わったのが、1975 年。過酷な時代を生き抜いてきたオーラを感じる。
矍鑠 ( かくしゃく ) としている。
写真をみてほしい。カフェの入り口はこんな感じになっている。
日本で毛筆を使い、「ありがとう」と書いてもらい、日本でデザインした。
ハノイに進出している日本の内装業者に作ってもらった。
いい感じに仕上がったと思っていた。
ある日、はじめに紹介した老人が、看板の前に立ち、手を左右に大きく広げて何かいっている?一生懸命何かを伝えようとしている。
身振り手振りから察すると、次のようなことらしい。
「看板が小さい!もっと大きく大きく!これじゃ目立たんぞ!」
思わず笑ってしまった。確かにその通りだ。
ハノイの大きな通りに面した店舗はLED看板のオンパレード。店の前をオートバイで通過していくドライバー目線に合わせて、これでもか!これでもか!とアピールしている。街にあるカラオケ店に至っては、豪華 ( ごうか ) 絢爛 ( けんらん )、建屋の道路面がすべてのスペースがLEDとなっている。
日本とは大違い!
この国のエネルギーと活気は、道路沿いに広がる LED 看板に負けないインパクトと強さがある。
こうした看板が当たり前のハノイのみなさんにとって、ありがとうカフェの看板は存在感が全くない。
目立たない。
これが日本の看板なのです。このカフェにはこのデザインがピッタリなんです。
老人に説明したいけれども、シンチャウ(xin chao)、ファイ(phai)、チャイ(trai)しか、ベトナム語を知らない日本人としては会話が成り立たない。
なんとかしようと考えたのが、看板の横にある竹のカゴだ。
和風っぽい花を一輪、生けてみた。お店の前を通る老人が、何か言ってくれないかと期待していたが、話にならないと思われてしまったのか、その後、何の声もかけてくれない。
オープン後、しばらく経ってから、入口にテーブルと椅子を置き、最後の仕上げとして野点のお茶会で使う真っ赤な和傘を日本から持ち込み、アイキャッチとして使っている。
ベトナムの若いグループがお客様としてご来店いただくときがある。ありがとうカフェの看板の横にある一輪ざしの花を見つけてくれて、小さなカフェの看板を中心に顔を寄せ合い、写真を撮ってくれるときがある。笑顔の花が咲く。入り口に花があることを気づいてくれたことに感謝するばかりだ。
高齢化社会に突入している日本人から見ると、羨ましくてしょうがないことがある。街に若いエネルギーが充満している。